映画監督 新城卓氏 講演記録


『映画「氷雪の門」にかかわって』


平成十五年八月十四日
和歌山県民文化会館


「こんばんは。映画監督の新城卓です。よろしくお願いいたします。今日は雨の中、またお盆の真っ最中で、お時間をいただきまして有難うございます。
 僕は三十年前に、この「氷雪の門」という映画の助監督をいたしました。タイトルにギリギリで出ておりますけれども、助監督という名前で出ています。
 僕はこの映画にたずさわって、この映画が上映、封切り十日前に東宝鰍ェ公開を降りたんです。それからこの映画は非常に波乱万丈の過程を得まして、ほとんど日の目を見なかったんです。それがくやしくて、くやしくて、ずぅーっと考えていたんですけれども、去年、守田プロデューサー(当時の製作)が、「新城君、このフィルム何とかならないか」と言われまして、そのフィルムを見たんですけれども、ほとんど赤茶けてダメだったんですけれども、何とか今のCG(コンピューターグラフィック)技術をもってビデオ化にこぎつけ、何とか再生しようとしています。
 それと同時に、インターネットで調べましたら、和歌山の東光グループが毎年この映画を上映しているのを見まして、いたく感動いたしました。やっぱり、映画というものはどう言うんでしょうか、自分の息子、娘みたいなものですから、映画が完成したら、ぜひ、それを上映したいというのが願望なんですね。そういう意味で僕は嬉しくて、今日東京からすっ飛んで来たんです。
 映画というのはエンターテイメントといいますか、いろんな作品があっていいと僕は思うんです。マッドマックスとか、マトリックスとかCGで合成した、いろんなエンターテイメントの映画もいっぱいあっていいと思うんですけれど、ただ、映画の持つ意味あいの中で、こういう映画、「氷雪の門」みたいな映画っていうものは、これは僕は非常に自分の思いがあるんですけれども、我々助監督はこの映画を撮影するにあたって、当時の服装とか、当時の持ち物、当時の背景とかを全部調べてやったんですね。
 だから、その時に調べていくうちに、僕は思い出があるんですけれども、涙が出てどうしようもなかった記憶があるんです。
 まず、この樺太の話自体を我々は知らなかったんですね。樺太の史実を知らなかったんです。映画とはご承知の通り、フィクション、ノンフィクションというものがありますから、いろんな作り話もいっぱいありますけれども、この映画は”ノンフィクション”なんですね。”史実”なんです。
 それで、ソ連が八月九日から日ソ不可侵条約を破って攻めて来たんですけれども、その時にソ連が送った兵隊というのは、全部囚人部隊を送っているんです。ソ連から囚人部隊を樺太に送っているんです。
 だから、凄まじい虐殺とか、レイプ、殺人が始まって非常に混乱を呈したんです。
なおかつ、映画ですから、そこまで撮りますと、観る人に不快感を与えてはマズイと思いまして、いろんな意味で手加減した思いがあるんですけれども、この映画の訴えているもの以上に、もっと残酷なんですね、実は。それで、避難民なんかも五百名とか、一千名を動員しましたけれども、最低二十から三十回リハーサルした覚えがあります。
 要するに避難民のシーンを撮る時に、「ハイ、テスト、テスト」と二十回から三十回やって来ると、避難民がヘトヘトに疲れるわけなんです。もう、いやだこと、しんどいこと・・・。この、しんどいというところで本番を廻すんです。そのしんどさが映画に、画(え)に映(うつ)るんですね。
 そういうワンシーン、ワンシーンの思い出というものはいっぱいあります。
 真岡。この真岡郵便局という場所が出てきますけれど、真岡の地形というものが海に面した地形で、これが栃木県の常磐炭鉱の跡に似ているというので、そこに真岡郵便局のオープンセットを作ったんです。
 その時にその回りは全部アンテナがありまして、テレビを持った民家がもちろん有るんですけれども、そのアンテナを電気屋さんに頼んで全部外してもらって、そして撮影が終わった後はもちろん建て直して、復元した記憶があります。そういう意味じゃ、一つ一つの中に、全部僕は思い出があります。
 だから、我々映画を作る人間というものは、何かメッセージ性を持って、何かを訴えたいと思っているのは事実です。
 この映画というのは、本当は封切り十日前に配給中止になりまして、もうほとんど何といいましょうか、翻弄された中で上映できなかった作品なんです。
 それが、今でもこの映画にかかわった事を非常に誇りに思っています。
 僕は若干二十七歳でしたけれども、このワンシーン、ワンシーンは今でも覚えています。
 だから、ぜひ今日は皆さん、本当に雨の中、足場の悪い中、来ていただいたんですけれども、この二時間半の中で、僕は絶対に得るものがあると思います。じっくり観てください。有難うございました。」






もどる








100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!