論説


 「青年運動」平成15年三月号

 日本までが対人地雷を廃棄する必要があるのか

 二月八日、小泉純一郎首相は滋賀県新旭町の航空自衛隊饗庭野分屯基地で行われた 対人地雷廃棄完了式典に参加した。小泉首相は、日本が保有する最後の対人地雷の爆 破スイッチを自ら押すよう指示し、廃棄作業が完了した。
 対人地雷禁止条約に基づく措置だが、これでわが国は百万個の対人地雷を廃棄した ことになる。今後は、訓練や研究用に保有が条約で認められた一万個だけを保有する という。
 世間ではこれに拍手する向きがほとんどのようだが、なぜわが国が、自衛 のため保有してきた対人地雷を廃棄しなければならないのか。まことに愚かな所業と いわざるを得ない。
 そもそも、対人地雷が世界的に問題視されているのは、カンボジアやアフガニスタ ンなど発展途上国の地域で、平和が訪れた後も、戦時、内戦時に埋設された地雷を住 民が踏み、生命を落としたり、四肢を失うなど重い障害を負う悲劇が頻発しているた めだ。対人地雷のせいで、手や足、目などを失った被害者を見ると、気の毒でならな い。
 これら被害者が生じたのは、中国を中心とする諸外国が、対人地雷を発展途上国に 輸出または援助し、ゲリラ、政府軍などの武装勢力がむやみやたらに埋設したため だ。
 国際社会は、中国など地雷を輸出した国々と埋設した武装勢力を非難し、埋設地雷 を取り除き、地雷輸出禁止などの再発防止措置をとるべきだ。
 ところが、わが国のように、これまで地雷をいっさい輸出せず、いかなる人々にも 被害を与えたことのない国が、自国を防衛する対人地雷まで廃棄するのは行き過ぎで はないだろうか。
 たとえばわが国の場合、陸上兵力の少なさという不利を、対人地雷でカバーするこ とができる。また、武装工作員が侵入しやすい地域をあらかじめ立ち入り禁止区域と し、地雷で防衛することも可能だ。
 自衛隊が地雷を埋設する場合、埋設区域を記録に残すし、一定期間がたてば爆発し なくなる無効化の処理を施すことができる。戦後に国民が地雷の被害にあう可能性は ごく少ない。
 一方、対人地雷を廃棄したせいで、有事の際に自衛隊の兵士たちが多大な生命の危 険を背負うことになった。地雷が防御してくれなくなった分、戦闘は困難になり、死 傷者が増えるのは避けられない。
 小泉首相が、パフォーマンスを繰り広げた廃棄作業によって、有事に死傷する自衛 隊員は確実に増えたのだ。首相と政府の行動は利敵行為としかいいようがあるまい。 わが国に悪意をもつ一部近隣諸国がほくそ笑んでいるのが目に見えるようだ。
 ましてや、対人地雷禁止条約はアメリカ、ロシア、中国、北朝鮮などが加盟してい ない「ざる法」だ。
 わが国が取り組むべきは、地雷輸出の全面禁止、すでに埋設された世界に一億一千 万個あるといわれる地雷の除去だ。平成十年から昨年までの五年間で、わが国は合計 百三億円を拠出し、除去作業の支援や被害者のリハビリ施設整備などの国際援助をし ている。
 しかし、わが国の防衛力を弱め、自衛隊員の生命身体の危険を高めた対人地雷廃棄 にかかった費用は二十億円。これも国際援助に回すべきではなかったか。政府の猛省 を促したい。





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